追憶のマリア

 れんが連れ帰った女を見て俺は愕然とした。


 組織の中でも一番若い拓郎に、れんがまるで物を投げるようにして渡した女は、間違いなく写真のマリアだった。


 10年近い年月を経て、彼女の美しさは一段ときらめきを増し、その清らかさに俺は心を奪われ、思考回路が一瞬停止した。


 拓郎に命乞いする彼女をただ呆然と見詰めていた。


 れんに、外で殺って来いと怒鳴られた拓郎に、引きずるように玄関へ連れて行かれる彼女の嘆くような泣き声に、ようやく俺は自分を取り戻した。


 俺は、彼女の身体が目的のように装い、拓郎から彼女を奪うように取り上げた。


 れんは、好きにしろと失笑し、俺は奥の寝室へ彼女を連れ込んだ。


 そして部屋の外の皆に彼女のわめき声を聞かせるため、わざと乱暴するふりをした。


 けど彼女は、一切わめかず、最初は抵抗して暴れたが、すぐに逃れられないと知ると、俺に顔をそむけ、


「殺して…」


 とすべてを諦めたように静かに言った。


 俺に汚されるくらいなら死を選ぶ…


 彼女は俺の想像したマリアそのものだった。


 『純真無垢』…そんな言葉がピッタリだった。


 俺は彼女の横顔をしばらく見詰めた。








 助けたいのに…


 あんたを助けたいのに…


 あんたが生きるのを諦めてしまったら、それができなくなる…