追憶のマリア

 俺には悲しむことすら許されなかった。


 京子の死を無駄にしないためにも任務を続行しなければならない。


 その為に俺は心を捨てた。


 人間でいることを止めたんだ。





―――――1年後―――――



 ビル爆破決行の日。


 爆破寸前で俺と、俺が応援に呼んだ仲間の警官達は、仕掛けられたすべての爆弾撤去に成功、犯人グループをビルの最上階へ追い詰めた。


 そこで繰り広げられた激しい銃撃戦に巻き込まれ、一人の若い消防士が俺の目の前で死んでいった。


 俺はなんとかして助けたかった。


 守るべきものがあるその男を、何としてでも救いたかった。


 それがかなわなかった時、俺の心は完全に壊れてしまった。


 人間としての機能を完全に失った。






 その時一枚の写真を拾った。


 若い消防士が死ぬ寸前、愛しげに眺めていた写真。


 それは男が守りたかったもの。


 男がこの世で一番愛していた大切な家族。


 写真の女は、惜しみなく俺に微笑みかけていた。


 俺はその女がマリアに見えた。


 その時から…あんたは…俺のマリアだったんだ。






 警察の遺体安置所で泣き崩れるあんたを見かけ、俺は写真を返そうと近付いた。


 付き添ってた、物腰の優しい年配の刑事の青山さんが俺に気付き、消防士の亡骸にすがりついて泣いているその女の肩にそっと触れ、


「奥さん…さっき話してた窪田です。ほら…あなたのご主人を助けようと、最後まで心臓マッサージを続けた…」


 そう言って俺の方を再び振り返ったが、俺が忽然と姿を消していたので、


「あれ?くぼたー?おーーーい、窪田?!」


 きょろきょろしながら俺を呼んだ。