追憶のマリア

 テロ組織に潜入することなんか、俺にとっては容易なことだった。


 ちょっとした犯罪をさりげなく手伝い、信用させて仲間になる。


 でも計算外だったのは、京子のことがバレたことだった。


 ようやく、組織のリーダー『黒岩』の右腕にまでのし上がった頃、俺は黒岩に、組織のアジトの貸し倉庫に呼び出された。


 俺が到着すると、組織の幹部が既に集まっており、一斉に俺を見た。


 黒岩が俺にゆっくり近付き、俺に不必要なほど顔を近づけて話し始めた。


「お前みたいな若造を、こんな重要なポジションに置いてやってる。その理由がわかるか?」


 黒岩の生暖かい息が俺の頬にかかった。


「あんたが俺を…俺の能力をかってくれてる。」


 俺は黒岩を見ずに答えた。


「能力?」


 黒岩は大げさに驚いて見せ、そして腹を抱えて笑った。


 そしてすぐ真顔になり


「思い上がるな。」


 と冷ややかに言った。


 俺も負けじと冷淡な視線を黒岩に返した。


「それだよ、それ…」


 黒岩は片手で俺の顎をつかみ、クイッと自分の方へ向けた。


「その非情な目に惚れたんだ。お前は他の奴らとは違う。光を内に秘めた原石だ。」


 『大げさな…』俺の気持ちはドン引きだった。


「…と思ったんだけどなぁ…」


 どうやらこっからが本題らしい。


 嫌な予感がした。


 「おい。」


 黒岩が背後にいる部下に合図した。


 部下が積み上げられた荷物の陰に消えたと思ったら、 一人のボロボロにされた女を連れて再び現れた。