追憶のマリア

「あ…」


 母は思わず声をもらし、マジマジと窪田の顔を見た。


「なんだよ?!」


 見詰められた窪田も不思議そうに母を見た。


「今笑った?」


 母は嬉しそうに微笑んだ。


「笑ってねぇーよ。」


 窪田は照れくさそうに顔をそむけた。


「笑ったよ?!ねぇ…」


 そう言って母はそむけた窪田の顔を覗き込んだ。


「絶対に笑ってない!」


 母の覗き込みから逃れるように今度は顔を上に向けて窪田は言った。


「絶対に笑ったし。」


 窪田の顔を追うのは諦めた母は、そう言って少女のようにクスクス笑った。


 窪田はそんな母を思わずじっと見詰めた。


 窪田の視線に気付き、母も窪田に視線を返した。


 窪田は不意に見詰め返されてとっさにうつむき、そして再び母を見て


「あんたいくつだよ?!」


 少女のようにはしゃぐ母にそう言った。


「あなたこそいくつよ?!」


 母はふくれて聞き返した。


「さんじゅうご。」


 そう言うと窪田はベッドから降りて立ち上がった。


「え?」


 せいぜい30前後だと思っていたのに、予想外に年が上だったことと、急に立ち上がったことの両方に驚いて、母もサッと立ち上がり、両手で窪田の両腕を持って、歩き出そうとする窪田を静止した。


 窪田が母を見下ろした。


 母は近くで見る窪田にドキッとした。