追憶のマリア

「それにしてもオマエ…いつまでこの女と楽しんでるつもりだ?年増女とのセックスはそんなにいいか?」


 そう言って、いやらしい目で舐めるように母を見た。


 いつも母に嫌悪のこもった視線を送るのに、今日のれんは違っていた。


 母はそんなれんの視線に寒気を覚え、身震いした。


 れんはそんな母の反応に、性感帯を刺激されたように益々興奮し、母の胸元に手を伸ばした。


 その瞬間、人間業とは思えないほどの素早さで身を起こし、窪田が枕の下で握っていた銃の銃口を、れんのこめかみに当てカチッと安全装置をはずした。


「さわんじゃねぇ。」


 窪田が低い声で言うと、れんは両手を挙げバンザイの格好をし、


「冗談だよ、冗談。ほんとにオマエはつまんねぇー野郎だなぁ…」


 とヘラヘラ笑ったが、やっぱり目は笑っていなかった。


 そしてバンザイのままドアの方へ歩き、こちらを振り返らずに、


「今日中に昨日の仕事、片付けろよ。」


 と言い残してアパートを出て行った。


 れんが出て行っても、母の身体は先ほどの恐怖と不快感にかすかに震えていた。


 そんな母の様子を見て窪田は、


「あいつには指一本触れさせない。」


 と静かに囁いて母を優しく見詰めた。


 母も見詰め返した。


 窪田を見詰めることで…窪田に見詰められることで…母の中の不安や恐怖がみるみる消失していくのを感じた。


 『そうゆうあなたも…私に一切触れようとしないのに…』


 母は無意識にそんなことを想い切なくなった。


 そんな母の様子に、窪田は


「恐い?」


 と聞いた。


 母が我に返って「ううん。」と首を左右に振ると、


「俺なんか信用できねぇーよな。」


 と言って窪田は微かに微笑んだ。