追憶のマリア









 母はいつの間にか眠ってしまった。


 窪田が眠るベッドの傍らに、足を崩して床に座り、ベッド端に組むようにしてのせた両腕を枕にして…。


 窓から朝日が差し込み、窪田は顔をしかめながらゆっくりと目を開けた。


 窪田は、自分のすぐ横にある母の寝顔を、仰向けで寝たまま見下ろすようにして見た。


 窪田はしばらく、そのまま静かに、眠る母を見詰めていた。


 そして、熟睡していると確信すると、その頬に触れようとそっと手を伸ばした。


 窪田の手が母の髪に触れ、母はそれに反応し、ピクッと動いた。


 窪田はとっさに手を引っ込める。


 母は目を閉じたまま、ほんの少し顔をしかめると、窪田の方を向いていた顔を軽く持ち上げ、反対を向けて置き直した。


 窪田からは母の後頭部しか見えなくなった。


 窪田は「チッ」と舌打ちし、天井を見上げた。









 アパートへ誰かが入って来た気配を感じ、窪田は枕の下に手を潜り込ませ、そこに忍ばせてあった銃を握った。


「しくじりやがって。」


 寝室の入り口に立ったれんが、忌々しげに言った。


 その声に母は目を覚まし、ガバッと頭を起こした。


 そして窪田を見て、窪田が冷ややかに見詰める視線の先に自分の視線も移した。


 母は、れんの不自然なまでに完璧に整った顔が嫌いだった。


 その整った冷淡な顔が微笑むのを見ると背筋が凍った。


 れんはずかずかと当たり前のように部屋に入って来て、窪田の腹部に綺麗に巻かれた包帯を見て、


「看護師拉致って来てよかったなぁ、ツヨシ。俺に感謝しろよ。」


 と不愉快なほどに嫌味な笑みをこぼして言った。