追憶のマリア

 窪田はすぐさま、救命士の首筋に自分の指の腹をあてがい、脈を確認した。


 救命士の脈は途絶えていた。


 窪田は素早く組んだ両手を救命士の胸部に置き、心臓マッサージを開始した。


「会えるさ…すぐに会える…だから戻って来い!!」


 肋骨が何本も折れるほど、激しく、強く、窪田は救命士の胸部を押し続け、そして何度も何度も呼びかけた。


 どれほどの時間そうしていたのか…


 ようやく駆けつけた年配の男が、背後から窪田の肩にそっと手を掛け、


「窪田…もう死んでる。」


と静かに言った。


 そしてその年配の男は、窪田の肩をポンポンッと優しく叩き、窪田の元を離れ、他の負傷者の救出に向かった。


 窪田は呆然と救命士の亡骸を見詰めた。


 そして救命士の手から落ちた写真にゆっくり視線を移す。


 窪田はその写真を手に取って眺めた。


 1歳にも満たないであろう男の赤ちゃんと、彼を抱いて微笑む母親。


 おそらくこの救命士の妻子であろう写真の中の母子は、窪田に無条件で微笑みかけていた。


 その微笑みは窪田の空虚な心に、小さな灯を与えた。


「くぼたぁーーー!!」


 先ほどの年配の男に呼ばれ、窪田はとっさにその写真を上着のポケットに入れた。