追憶のマリア

「あんたの旦那が死んだとき…俺もその場にいた。なんとか助けようとしたけど駄目だった。死ぬ寸前…彼はその写真を手に涙を流した。彼は最期…あんた達のこと想いながら…逝ったんだ。俺はその写真をつい自分のポケットに入れた。警察の死体安置所であんたを見かけた時、返そうと思った。けど…できなかった。手離したくなかったんだ…どうしても…」


 母は微動だにせずツヨシを見詰め、ツヨシの言葉を受け止めていた。


 そうしているうち、母の中に愛する父の記憶が鮮明に蘇り、母の頬を止め処なく涙がつたった。


 朦朧とする意識の中、ツヨシは残りの力をすべて注ぎ込むように、そんな母の頬へ手を伸ばし、母の目から溢れ出る美しい透明な雫を拭おうとした。


 母は差し伸べられたツヨシの手を優しく両手で包み、その手の平にそっと濡れた頬をすり寄せた。


「変…だな…。あんたが…俺の手…握ってるみたいだ…。」


 薄れゆく意識の中、ツヨシはうわ言のように途切れ途切れ呟き、そして今度こそ本当に意識を失った。






 『あなたはいったい…誰なの?』





 母は傷の手当を終え、安らかにベッドの上で眠るツヨシに、心の中で問いかけた。