追憶のマリア

 そして、っうっっ…と苦しそうに呻き声をあげ、固く目を閉じた。


 母は急いで押入れを開け、その中にあった棚の引き出しを探った。


 上から順に引き出しを開けた。


 1段目は電卓や爪切りなど、生活に必要な小道具が入っていた。


 続いて2段目を開けると、通帳や印鑑が無造作に押し込まれていた。


 『なんて無用心な…』と思いながら、母は引き出しを閉めかけ、ふと通帳に紛れて裏返しに入っている写真のようなものを見つけた。


 どうしようもなく気になって、母はその写真を手に取りゆっくりそれを表に返した。


 その瞬間、母の全身に衝撃が走った。


 電撃のようなそれは、母の頭から足へと瞬時に走り抜け、束の間母は動きを封じられその場に立ち尽くした。


 それは俺と、俺を抱いて微笑む母の写真…


 生前父がいつも、肌身離さず持ち歩いていた写真だった。


 写真の端には血のついた手で触れたとみられる、赤い指紋が付着していた。


 親指らしきその指紋に母は自分の親指を重ねた。


 大きさから、その指紋が父、海司のものだと母は確信した。


 『どうして…?どうして、これがここに?』


 そんな疑問が母の脳裏をよぎった時、母は現状を思い出し我に返り、振り返ってツヨシを見た。


 母の瞳に、顔を苦痛に歪め、息を荒げて必死で痛みに耐えているツヨシが映った。


 このまま放っておけばツヨシは死ぬかもしれない。


 ツヨシは母をここに監禁している張本人だった。


 でも母がここから無事脱出できるかどうかも、この男に懸かっている、根拠もなくそんな気がしてならなかった。


 『死なせてはいけない』


 母はそう判断した。