追憶のマリア







 もう一週間近くここにいる…?!






 母は思った。


 ツヨシは母に、食べ物など生きるために必要なものを与えるのみで、母には全く関わろうとしなかった。


 アパートの一室に二人の人間が生命活動を営んでいる、ただ存在している。


 そんな共同生活が続く中、気付くと母は、いつしかツヨシの帰りを待つようになっていた。


 一人はとても苦しい。


 絶望的な思考が、引っ切り無しに押し寄せて来る。


 今にも壊れてしまいそうな母の心には、誰か他者の存在が必要だった。


 たとえそれが犯罪者でも、傍に誰かを感じ、気を紛らわせたかった。






 その日はいつにも増して夜遅くにツヨシは帰って来た。


 玄関のドアが開く音がしたと同時に、ダンッと、何かが床を叩きつけるような、鈍い大きな音がした。


 リビングのソファーに腰掛けたまま、まどろんでいた母は、その音に驚いて目を覚ました。


 薄暗い部屋の中で、つけっぱなしのテレビだけがチカチカ光り、リビングから玄関へと続くほんの2mほどの狭い廊下に、横向きで倒れているツヨシの顔を照らした。


 母は慌ててツヨシに駆け寄ってしゃがみ込むと、恐る恐るツヨシの肩に触れた。


 ツヨシは母に触れられたことに反応し、すこし身体を揺らし苦しそうに顔を歪めた。


 ツヨシの右手が右下腹を押さえていて、その指の隙間からは大量の血が滲み出ている。


 母はツヨシの身体をそっと抱き起こし、ツヨシの左手首を掴むと自分の首に巻きつけツヨシを立たせた。


 ツヨシをなんとか奥の寝室に連れて行き、ベッドの上に寝かす。


 ツヨシは母に支えられてやっと歩ける状態だった。


 仰向けにベッドに横たわり、激しい痛みに呼吸を荒げながら、


「そこの押入れの棚に…消毒とか…あるから…多分引き出しのどっか…」


 必死に声を搾り出して、ツヨシは母に伝えた。