追憶のマリア

 ある晴れた日、ツヨシが朝から出かけたので、母は急いで浴室へ向かった。


 母は着替えがないので、すぐさま浴室でシャワーを浴び、ついでに着ていた服をサッと手洗いした。


 そしてベッドのシーツを剥ぎ取って、自分の裸体をくるみ、手洗いして一生懸命絞った服をベランダに干した。


 ツヨシの部屋には洗濯機すらなく、手動の脱水では洗った衣服は、まだたっぷり水分を含んでいて重かった。


 だが母は、これだけ晴れていれば、ツヨシが帰る前に、洗濯物は乾くだろうと安易に考えていた。




 することもないので、ツヨシが出掛けている間、母はいつも勝手にリビングへ出て来ては、テレビを見る。


 だがその日、昼の12時過ぎ、玄関の鍵を開ける音がしたので、母は慌てて奥の寝室に戻った。


 身にまとったシーツが後ろにたなびいて閉まったドアに挟まった。


 シーツが後方へ引っ張られて脱げそうになり、振り返った母はシーツの端がドアに挟まっていることに気付く。


 すぐに部屋の入り口へ戻って、シーツに食らいついてるドアを開けるとそこに、ツヨシが立っていた。


 母の視線がツヨシのそれにぶつかる。


 が、母はシーツの裾を手繰り寄せるように部屋の中へ入れ、何も見なかったかのように、ツヨシの存在に気付かなかったかのように、そっとドアを閉めようとした。


 ドアが閉まる直前、わずかに開いている隙間にツヨシが左手を素早く滑り込ませ、母の抵抗虚しくドアは勢いよく開け放たれた。