追憶のマリア

 その日の午後、ツヨシの元へゴールドヘッドが一人でやって来た。


 ゴールドヘッドは、リビングのソファーに腰掛けくわえタバコでテレビに見入っているツヨシの背後を素通りし、母のいる奥の部屋のドアを予告なく開け、母の所在を確認した。


 ものすごく汚いものを見るかのような視線を母に注ぐと、ゴールドヘッドはすぐにドアを閉めた。


 ゴールドヘッドは若い女が好きだった。


 むしろ幼いくらいの若い女。


 だから、間もなく三十路を迎えようとしている母には全く興味を示さなかった。


 母はそのことに安堵した。


 ゴールドヘッドはリビングへ戻り、ツヨシが座っているL字型ソファーに、ツヨシから見て90°の位置にストンと勢いよく腰を落とした。


 その勢いで、ゴールドヘッドの身体はソファーの上で弾んだ。







「なぁ、ツヨシ。」


 ゴールドヘッドが切り出した。


 ツヨシは無表情で、くわえたタバコをふかしながらテレビに見入っていた。


 テレビの中で、昼のワイドショーの司会者が、ゲストとおもしろおかしくトークしており、その陽気な話し声や笑い声が、部屋の静寂と不釣合いで、際立って響き渡っている。


 ゴールドヘッドは、そんなツヨシの態度に構わず、用件を話し出した。


「オマエ、藤堂を殺ったんだよな?!」


 そう言って微笑んだゴールドヘッドの眼は笑っていなかった。


「藤堂と関わってたヤツラが次々と警察にパクられてる。不思議だよなぁ!?」


 そう言いながらゴールドヘッドは机の上の灰皿を手に取り、ツヨシがくわえているタバコの下にもっていった。


 ツヨシがくわえたタバコの先端は、3cmほども真っ白な灰になっており、それが重力に負けてゴールドヘッドが持っている灰皿の上にポトリと落ちた。


 ツヨシは顔は動かさず、目だけをゴールドヘッドに向けた。


 そしてくわえていたタバコをようやく手にとり、口から大量の煙を吐き出しながら、ゴールドヘッドが机上に戻した灰皿にねじ込んだ。