追憶のマリア

 ツヨシは一切抵抗などせず、母の攻撃を黙って受け続けた。


 怒りが頂点に達した母の容赦ない平手が、ツヨシの横っ面にクリーンヒットし、ツヨシの顔はその衝撃で弾き飛ばされた。


 鋭い、空気を切り裂くような大きな音に、母はようやく自分がしている事に気付いて動きを止める。


 顔を背けたツヨシが、ゆっくり母の方を向き直り、母の身体は恐怖で硬直する。


 首は右に傾げたままであるため、重力に従い左サイドの髪がツヨシの顔にかかり、その狭間から覗く左目は鈍い光を放っていた。




 『殺される』




 母はそう思った。


 だがツヨシは、


「気が済んだ?」


 と静かな落ち着き払った声で尋ねた。


 その表情に怒りはなく、感情すら窺えない。


 母は、そんなツヨシを見て、果てしない絶望感に襲われ、気を緩めれば溢れそうな涙を必死でこらえ、それでもなんとかツヨシを数秒睨みつけると、くるりと身をひるがえし、寝室に戻った。


 そしてベッドにうつぶして肩を震わせ泣いた。


 いつまでも…いつまでも…




 ツヨシは再び出かけて行き、昼頃まで戻ってこなかった。