「警察にそのことを話したらどうですか?きっとあなたの家族を助けてくれるはず。」


 なだめるように母は言った。


「警察なんか信用できねぇよ。ねぇ、頼むよ…こうしてる間にも妻は…」


 ゴールドヘッドはそこで、言葉を詰まらせ声を殺しながら泣いた。


 男性がこんな風に一目もはばからず涙を流すのを見るのは初めてで、母は酷く胸を締めつけられた。


 母はしばらく黙って、伏せ目がちに考え込んでいたが、やがて…


「夜勤帯は手薄になるの。休憩時間には更に人がいなくなる。その時にあなたを助けてあげる。」


 母はそう言って、それまで意識が戻っていないふりを続けるようゴールドヘッドに念を押し、静かに病室を出た。


 こんなことして、バレたらクビになるかも知れない。


 でも母は、彼の家族を見殺しになど出来なかった。







 深夜、母は自分のIDカードで従業員用出入口から病院内へこっそり忍び込んだ。


 そして夜勤帯の看護師に見つからないように用心深く、ゴールドヘッドの病室へ忍び込み、彼をベッドに縛り付けている抑制を解き、彼の身体はようやく自由を得た。


「ありがとう…ありがとう…」


 涙ぐみながら何度も何度も礼を言うゴールドヘッドに、


「早く行って。」


 と母は急かすように声をひそめて言う。


 それでも彼は、母の手をとり


「一緒に来て。」


 と祈るような目で母を見詰めた。


 そこまではしてあげられないと、母は申し訳なさげに首を振る。