銃で撃たれた犯罪者が、母の勤める病院に救急車で搬送された。


 若い警察官が、瀕死の犯罪者について、『麻薬密売組織の一員で、もしかしたら組織のリーダーかも知れない。なんとしても生かして、組織のことを洗いざらい吐かせたい。』と熱く語った。


 そんな犯罪者、恐ろしくて関わりたくないと、病棟の看護師たち誰もが、担当を拒否する中、母だけは…


 父の正義感を受け継ごうとするかのように、自ら担当を名乗りでた。


 




 その犯罪者は名前も素性も全く不明で、輝くほどの金髪から、警官達からは『ゴールドヘッド』と、長ったらしい通称で呼ばれていた。


 何日も意識が戻らないままだったが、ある日、母が血圧を測っていると、不意にその左腕が動いた。


 母は突然手首を掴まれ、心臓が跳ね上がる。


 恐る恐る血圧計から眠っているはずのゴールドヘッドの顔へと視線を移すと、その眼差しは、余すことなく母へと注がれていた。


 その完璧なほど美しく整った顔は、とても凶悪な犯罪者には見えない。


「頼む…助けて…。」


 切なげに目を潤ませ、ゴールドヘッドが母に訴えた。


「どういうことですか?」


 静かに優しく母が尋ねると


「妻と子供が人質にとられてるんだ。俺が戻らないと殺される。」


 そう言ってその美しい顔を涙で濡らした。


 妻子を殺すと脅されて、仕方なく薬の運び屋をやった。運悪く警察に見つかり銃撃戦となり、自分は流れ弾に当たって倒れ、気付いたらここに寝ていた…と、ゴールドヘッドは涙ながらに語った。