けれども、母には俺がいた。


 愛する父の形見の俺が…


 だから悲しんでばかりはいられなかった。


 俺を育てるため、両祖父母の助けを借りながら、母は通っていた看護学校へ復学して看護師となった。


 看護師として働く母は、まさに白衣の天使で、凛として美しく、言い寄る男は無数にいた。


 でも母は、田所の姓を名乗り続け、自分は既婚者だと言い張った。






 そして、俺が10歳の時…


 運命の出会いは、不意に訪れた。