二人に望まれてこの世に生を受けた俺は、両手を広げても余るだろう溢れんばかりの愛を一身に受け、スクスク、伸び伸びと育った。


 父の、母と俺への想いは温かく、心地よく、そして大きくて、俺たちはいつも父に守られているという安堵感に満たされ、毎日を過ごしていた。


 片時も離れたくないと、父は俺を抱いて微笑む母の写真を、仕事中いつも持ち歩いていた。


 父にとって、愛する家族のために生きることが喜びだったんだ。






 それなのに…




 ちょうど俺が歩き始めた頃、父が勤める消防署近くでテロリストによるビル占拠事件が発生。


 現場へ負傷者の救出に向かった父は、その事件に巻き込まれ帰らぬ人となった。


 その時母はきっと、悲しみ、痛み、怒り、憎しみ、と、マイナス感情だけに支配されたことだろう。


 何日も、泣き濡れて過ごしたのだと祖母に聞いた。


 尽きることのない、果てのない悲しみに、自分も消えたいと、父の元へ行きたいと、何度も願ったに違いないんだ。