しばらくして、綾が立ち上がり、
「でも、お母さんだってお父さんだって、
いずれは死んじゃうんだし。
そのあとは、私達が
代わりをしなければならないんだよ」
両手の砂を振り撒いて、
手をたたいて払いながら、
「あーあ、なんでこんなところへ、
生まれてきちゃったんだろう」
また綾は、波打ち際へと歩いてゆく。
中村も立ち上がり、その後ろを歩きながら、
「そんなこと言っちゃあ、
お母さんがかわいそうだろう。
お母さんだって、悩んだと思うよ。
君と兄さんはいくつ離れているんだい?」
「二つ」
前を向いたまま、ポツリとつぶやく。
「兄さんと姉さんは?」
「五つ」
やはり、前を向いたまま、ポツリとつぶやく
「その歳の差が、
お母さんの悩んだ時間じゃないのかな」
綾は立ち止まり、振り向き、中村を見る。
「どういうこと?」
しかし、中村は黙ったまま、返事は無い。
黙ったままの中村に、
綾は振り返って、中村を見る。
暫くの沈黙の後、意を決したかのように
中村が、大きく息をして話し出した。
「実は、お母さん………、
君の姉さんが2歳の時………」
遠く、沖を見つめる、中村。

