中村のところに、綾が来る。 


「この砂を両手ですくってごらん」


綾も、しゃがんで、両手で砂をすくう。

中村も両手で砂をすくい、
その手を少し揺らす。


「ほら、こうして少し手が揺れると
 砂がこぼれるだろう。
 だけどね、
 手の中にはまだこんなにあるんだよ。

 このこぼれた砂だけを見て、
 拾おうとすれば、ほら」


中村は両手をはずして、
手の中の砂をまいてみせる。

「何もなくなってしまうだろう」 


綾の手の砂をさして、


「君は本当は、そんなにお母さんに
 愛されているんだよ」


綾の手には、山になった砂が。


「君だって皆と同じように、
 両親に愛されているんだよ。
 まあ、それ以上に、お姉さんが
 大事にされているんだろうけどね。

 ただ、それが見えにくいだけなんだ。
 ちゃんと目を開けて見れば、
 見えるはずだよ。

 目を閉じてるのは、
 君自身じゃないのかい?

 多少こぼれたっていいじゃないか。
 大きな目で見てあげなよ」


綾は、両手ですくった砂を
じっと見ながら考えている。