~~~~ 渚にて ~~~~

車を降りた綾の、目の前に砂浜が広がる。

その先に,蒼い海。


「わあ、きれい」


砂浜の方へ歩いて行く綾。

そのあとを、中村が歩いて行く。

波打ち際まで行って、
綾が両手を広げ伸びをしながら、


「あー、やっぱり海はいいわー。
 見ていると心が洗われる気がするわ」


その姿は、恵子のそれと、全く同じだった。

後ろから、中村が声をかける。


「俺のことばかり聞かないで、
 少しは君のことも話してくれよ」


綾は、海のほうを向いたまま、
風に負けないように、少し大きな声で、


「私のこと?お母さんのこと?」 


「両方かな。君たちのことが知りたいんだ」


「別に、どうってことない、普通の家族よ。
 おじさんは、どのくらい知ってるの?」


「君に両親がいて、
 姉さんがいて、兄さんがいる、
 そのくらいかな」 


綾が振り返って、


「姉さんのことは?」


「ああ、少しはね。

 でも、普通の家族ってことは、
 愛のある、平和な家庭ってことだろう?」


「そうね。
 いつも、同じ毎日が過ぎているわね」


綾はまた海のほうに向かい、
沖をぼんやり眺めていた。