私、海が見たい


バス乗場で二人は、
向き合って立っていた。

中村は、恵子を見ているが、
恵子は中村を見ようとはせず、
下を向いていた。

二人とも、無言だった。

中村は、いろいろ言いたかったが、
恵子には、何を言っても、
全てを拒否する雰囲気をかもし出していた。


バスが入ってきた。

“プシュー”、乗車口が開く。

恵子は中村に向かって、目をあわさずに、


「さよなら」


そう言って、小走りにバスに乗り込み、
呆然と見上げる中村の横あたりの席に
腰を下ろした。

気丈に、まっすぐ前を見ている恵子。

しかし、その視界には中村が入っていた。

中村は恵子の横顔をじっと見ている。

“プシュー”、

ドアが閉まり、バスが出て行く。

バスが出た後、張り詰めた糸が切れたのか
恵子は泣き始めた。

中村が、遠ざかって行く。

バスを見送る中村。

バスが遠ざかって行く。