恵子は、中村の顔を見て、
「そんなに無理することないわ。
私、あなたの重荷にはなりたくないの」
そして、震える声で、
「それに、あなたは結構頑固だから、
そんなにすぐに変わるとは思えないわ」
「そんなこと言わんと……、
考え直せないんかなあ」
「いいえ、もうだめよ。
私、スポーツのことは
よくわからないから……。
でも、あなたには、あなたのことを
理解してくれるいい人が、
きっといると思うの」
「いや、それは………」
恵子は下を向いて、自分の手元に目を移し、
自分に言い聞かすように、
「私決めたんだから。
新しい人生に向かって、
踏み出して行こうと。
だから、邪魔しないで。
あなたには感謝してるわ」
前から言おうと決めてたかのように、
早口で言うと、
恵子は、中村を見ずに、席を立った。
慌ててあとを追う中村。
伝票を取りに戻って、
また慌ててあとを追った。

