私、海が見たい


喫茶店で、
恵子と中村が向かい合って座っていた。

最初に挨拶を交わしたきり、
二人は、ずっと黙っていた。

しばらくして恵子が、話しを切り出した。


「ごめんね。こんな時に呼び出して」 


恵子は、まっすぐ中村の顔を見ている。


「いや、大丈夫や」


「でもあなた、授業より試合を取って、
 迷わず留年を選んだ人なのに、
 今回よく、試合を捨てられたわね」


「俺ももう、5年生やからな。
 俺がいなくても、そう影響は無いわ。

 で、なんやの、話って」


恵子は、中村の手に目を移し、
少しの沈黙の後、


「あのね………。
 私たち、もうだめだと思うの………

 あなたは誠実だし、優しいから、私、
 あなたと付き合えてよかったと
 思っているのだけど」


「やっぱり、その話なんか」


「でも、もう私、耐えられないの。
 いつも手紙を書くのは私だけだし、
 いくら待っても電話は来ないし、
 私一人、ワーワー言ってる
 だけじゃないかって」


「そんなことないやん。
 手紙を書かなんだのは、謝るわ。
 電話も、するから」


「いいえ、もういいの」