-- 現在。車内の、綾と中村 --
再び車は、海岸線に出てきて、
綾は海を見ている
中村は、その背中に語りかけた。
「まあ、あの頃はもう俺、
ボロボロになっていたかなぁ。
彼女のこと、
思いやる余裕も無かったんだろうな」
遠くを見つめる、中村。
少し間があって、綾が、
「こんなこと聞いていいかな?」
海の方を向いたまま、尋ねた。
「何?」
「関係はあったの?
お母さんと……、その…………」
綾は目を下に落とす。
中村が、綾をチラッと見て、また前を向き、
「訊きにくい事を、スバっと訊くねぇ」
「いや、別に、言いたくなかったら……」
気まずいのか、綾は、
中村を見ようとはしなかった。
「そんなもの無いよ。清く正しい交際さ。
プラトニック・ラブ……、
ってやつかな」
「ふーん」
綾は海のほうを向いたまま、
独り言のように、言った。
遠くを見つめる、中村。

