私、海が見たい


もう、夕方になっていて、
あたりは薄暗くなっていた。

体育館から、2人が出てきた。


二人腕を組んで歩いて行く。

恵子は楽しそうに腕にしがみつき、
中村を見上げて話しかけていた。

しかし、
中村は試合のことを考えているのか、
上の空で生返事。


「ねえ、就職活動してる?」


「いいや」


「もう始めなくちゃぁ。
 遅いくらいでしょ?
 みんなもう、
 走り回ってるんじゃぁないの?」


中村は前を向いたまま、言い難くそうに、


「うん……。俺……、
 今年は卒業できないんだ」


「えっ、何で?」


「うん………………」


中村の言葉は、歯切れが悪い。


「試合と実験の授業が重なってな、
 ベストエイトのかかった
 大事な試合やったんで、
 卒業はええわと思うて……」


「えっ、それいつの話?」


「うん…………、6月頃……かな」


「何でその時、言ってくれなかったの」


「うん………………」


不満そうな顔で、中村を見上げる恵子。