中村が私服に着替えて、
二階の観覧席にやってきた。
試合を見ていた恵子の、隣の席に
ドスンと腰を下ろす。
コートでは、次の試合をやっている。
中村は、コートの試合を見ながら、
「あーあ、また負けたぁ。
やっぱり一部チームは強いわ」
恵子は中村のほうを向いて話すが、
中村はずっとコートの試合を見ていた。
「一生懸命やったんでしょ。いいじゃない」
「だけど、やっぱり勝ちたいわ。
ちょっとはええとこ、
見せたいんやけどなぁ」
中村の目は、コートのボールを追っている。
「あら、いいとこいっぱいあったわよ」
仲村は、初めて、恵子を見て、
「そうかぁ?……ふーん…………」
そしてまた、コートに目を移し、
「じゃ、まあ、いっかぁ」
中村は、コートの試合を見ながら
立ち上がった。
「よっし、飯、食いに行こう」
恵子は笑顔で、座席から中村を見上げて、
「うん」

