綾は、中村の言葉を聞きながら、
“自分は、こんな所まで来て、
何してるんだろう”、と思った。

綾は目をそらし、
下を向いて自分の手を見ながら、
しばらくの沈黙の後、

「ふーん。そうなんだ。…………

 おじさん、お母さんとは、
 どんな関係なの?」


「どんな関係って……。
 君は何処まで知ってるのかい?」


「いえ、何も。
 同級生だったというくらい。
 それと、あのメールで、
 昔、………付き合っていたのかなと」


「ああそうだよ。
 でも、それだけだよ。今は何もないよ。

 そうかぁ……。あのメール読んだのか。
 恥かしいくらい
 センチメンタルだっただろう?」


「ええ、いまどき、はやらないくらい」


目を上げ、中村を見る綾。

綾の怒りは和らいできていた。

「言うねえ。でも、今は送った事、
 ちょっと後悔してるんだ。
 今更って感じだろう。“何を今頃”って、
 君のお母さんも、思っていると思うんだ。

 でもね、一度、ありがとうと、ごめんねを
 言いたいと思っていたんだ」


綾は、黙ったまま、また下を向いた。