綾は中村の顔をじっと見ている。

「ちょっと、説教くさくなったけど、
 まっ、要は、君次第ってことかな。
 君の人生なんだ。
 君が決めたらいいんだよ。

 ただね、お母さんは逃げなかったよ。
 前を向いて、闘ってきたんだ。
 それだけは、わかってあげなよな」


中村は綾の顔を見て、微笑む。

「さあ、遅くなるといけないから、
 もう帰ろうか」


綾は真面目な顔でうなづく。

二人肩を並べて歩き出す。


駐車場へ続く坂道にかかった時、突然綾が、

「私、おじさんのこと、
 大好きになっちゃった」


そう言って、中村の腕に飛びついた。

「おい、おい」


腕にしがみついて、
いたずらそうな笑顔で見上げる綾。

「まっ、悪い気持ちはしないわなっ」


綾は中村の腕にぶら下がるようにして、
楽しそうに坂道を降りてゆく。



2人は駐車場まで、腕を組んでやって来た。

車の後ろまで来ると中村が、おどけた調子で

「どうも、あ・り・が・とっ」


そう言うと、綾が、

「いいえ、どう・いたし・まし・て!」


二人顔を見合わせ、
笑いながら左右に別れ、車に乗り込んだ。