恵子が、顔を上げ、中村を見る。

「あの人は、子供を離したくないのよ。
 私も、この子と離れたくはないの。
 私、この子を取り合うのだけは、
 避けたいの。

 それでもし、この子の親権が
 あの人の方へ行ったら、
 何にもならないでしょう」


「いや、それはやってみなきゃ、
 わからんやろう」


「あなたは何もわかってないわ」


恵子の声が次第に大きくなってゆく。 

「亜季は、絶対、誰にも渡さないわ。
 私、この子と離されるくらいなら、
 死んだほうがましよ」


その時、亜季が、窓の外の上方を指差した。

恵子が亜季の指に顔を近づけ、
その方向を見る。

中村も振り返って見る。

「何?

 何かいるの?」


ゆっくりと優しく言う。

亜季が指差すのをやめて、
またミルクを飲み始めた。