私、海が見たい


---- 会話 ----


車が海岸沿いの道にさしかかる。

左には、堤防越しに、海が見える。

「わあ、海がきれい」


弾む、恵子の声がした。

「私の所は海がないから、
 海を見るとホッとするの」


「今、どこにいるのん?」


「埼玉なの。
 海がないでしょう?
 だから、時々海が見たくなっても、
 なかなか見に行けないの。
 だから今日は、
 思いっきり海を見ておくわ」


しばらく海を見ていた恵子が振り返り、
楽しそうに、

「いつだったかしら。
 神戸の公園か何かで見た海、
 あれもきれいだったわ」


突然、昔話を持ち出され、とまどう中村。

「えっ……。ああ……、
 うん……、そうやなあ。
 あれは確か…………
 須磨浦公園やったと思うけど、
 そこからは海が一望できたからね」



  29年前、秋。
  神戸、須磨浦公園。
  手摺に二人並んで、海を見ている。
  前には、海が広がっている。



中村も昔を思い出し、しみじみと、

「しかし、神戸はええ所やったわ。
 神戸にはええ想い出しか
 残ってないもんなぁ」


しだいに中村の声が震えてくる。

「バスケットボールと恵ちゃんと。
 とにかく、ええ所やった………。
 今は田舎に帰っているけど、
 できることなら
 ずっと神戸にいたかったわ」


しばらくの沈黙の後、恵子がポツリと言う。

「そうね………、神戸って、いい街ね」