啓はあたしが心配な時、いつも抱きしめる。


ずっと前付き合ってた彼氏と別れた時も。

泣き出すあたしを黙って抱きしめてくれた。


あの時は、嬉しかったはずなんだけどな。


今は、何も感じないんだ。



「ねえ、啓…あたし、大丈夫だよ。啓が心配することは何もないよ」


これは、本当だった。


むしろ、何が心配なのか分からなかった。


「お前が大丈夫でも、俺は無理」


「意味分かんないよ」



「俺も、お前が分かんねーよ!なんで、咲貴がいいわけ?」


「だから…」


「警戒感なさすぎなんだよ!だから、あんな風になってたんだろ!?」


きっと、啓は屋上で見たあたしと咲貴君のことを言ってるんだ。