「…痛いってばっ…」
あたしが抵抗してるのに、啓は連れて行こうとする。
「話したいことでもあんの?」
咲貴君が啓に言った。
「…あぁ」
「まあ、いいけど。終わったら、ちゃんと返せよ?」
―――俺の雨芽
こんな時でも、余裕の笑みを浮かべる咲貴君。
見とれてしまう自分がいた。
「…雨芽っ!」
そんなあたしに啓は苛立つらしい。
啓は、あたしを逃がさないようにぎゅっと腕を掴んでいた。
屋上から出た途端、その手が離れる。
「…お前…、どうした?」
そう言って、啓から抱きしめられた。
別にどうもしていない。
抱きしめられても、何も感じなかった。
啓から抱きしめられるのは、これが初めてじゃないから。