何台もの車が俺を抜いていく。


あれくらい速く走れたなら、どんなに良いだろう。


徒歩通学というのが、憎い。


風を切りながら、俺はとにかく走った。


今の俺には走ることしかできないのだ。


駅が見えてきたところで、俺の足は自然にぱたりと止まった。


駅前の横断歩道には、俺の通う高校の制服を着た女子が立っている。


信号は、まだ赤。


ふと、彼女の黒い髪の毛に目がいった。


暗闇よりも深い、漆黒の髪。


黒澤が、目の前にいる。


俺はポケットから携帯とラジオを取り出した。


携帯を開くと、19時1分。


イヤホンを耳にさし、ラジオのスイッチに指を置く。


ツルツルとした表面に、どうしても力を入れることをためらってしまう。


俺は目の前の黒髪を見つめ、スイッチをカチリと入れた。


ザザ……ザ