いつもより一時間遅い電車に乗るため、あたしは駅までの道をのんびり歩く。

3月になったとはいえ、まだ寒く、薄着をしてきたことを後悔した。

ジャケットの衿元を手で押さえ、風が入り込むのを避けながら、電車の到着を待った。


(一時間違うと多少は空いてるんだぁ…)


ゆっくりと停車する電車の窓から、中の様子を確認した。



―――えっ?あれって……


あたしは通り過ぎた車両を追い掛けて確認した。


(やっぱり…零だ!)


学校へ行くのが憂鬱だったあたしは、ゲンキンなもので途端にウキウキ胸を弾ませた。



「おはよう」

あたしが声を掛けると、零は振り向いた。


「あれっ?こんな時間にどうしたの?」


「卒業式の聖歌隊に選ばれちゃって…今から学校で練習なの」


「そうなんだ。あ、この前ごめんね?
バイトで先に帰っちゃって。大丈夫だった?」


「うん、あれから皆すぐ帰ったよ!
そうだ、あたし零にお金出してもらって…ありがとう」


「俺が誘ったしね」

「でも楽しかったし、行ってよかった!」


零は口元を少し緩めて笑っただけだった。