「…ヒロ?
あたし…もう行くね?」

あたしはゆっくりとヒロから体を離す。


「…あぁ……悪かったな」

「ありがと」


「そんなこと言うなよ…また帰りたくなくなるし!」

そう言うと、ヒロは顔を背けた。


「ごめん…じゃあ…」


あたしは車の重い扉を開け、外に出ると

もう一度中を覗き込み

「じゃあね…ありがと。
おやすみ」

と声を掛けた。


ヒロはこちらを見ようとはせず

斜め前のバックミラーの辺りを睨むように凝視したまま

「おやすみ」とだけ小さく言った。



ドアを閉じると、あたしは振り返ることなく家の門をくぐった。


ヒロが去っていくエンジン音を聞くと

何故か涙が込み上げてきた。



悲しいわけでもない…


それでも涙は次々溢れる。


思うようにならない人の心…


切ない想い……


ヒロの気持ちが痛いほどわかる…


あたしもヒロと同じだから…





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