ところかわってライブハウス“ORANGE DOTS”の楽屋内。


「ねえ、海斗はー?」


歌夜に声を掛けられて、耳に引っ掛けていたヘッドホンを外したのは桧山珪甫。鋭い目つきのまま一度あたりを見回してから、もう一度歌夜を見た。


「俺、あの人のお守りじゃないし」


相変わらず愛想の欠片も持ち合わせていないようで。
歌夜はそんな珪甫に、べー、っと舌をだしてから紅志の座っている壁際へと駆け寄っていった。


それを見送って、再び音楽を聴こうとした彼の肩を誰かがポン、と叩く。振り返ると、メロンソーダ色した髪の可愛い顔をした高校生。


「あ、えと……ハイジ、だっけ?」


「そうそう、俺ハイジ。覚えててくれたんだ、良かった!」


今日これから対バンするバンド、暁(アカツキ)のドラマーだ。ニッと笑った笑顔は子供みたいに無邪気。
珪甫はその笑顔を見ながら答えた。


「巧いヤツの名前は忘れないよ、俺。で、なんか用?」


う、巧い?!今俺のこと巧いって言った?!
やっべぇ!嬉しいっす、マジ嬉しい!!


ハイジは嬉しさのあまりに崩れそうな顔を両手で支えながら、珪甫の隣に腰をおろした。


「いや、お前らのバンドのベースの子なんだけど、さ」