LAST No.5
『白い少年』






白い髪を持った少年はただ小さく震えていた。


大きな屋敷の中、右も左もわからない。ただ、わかるのはこの屋敷の人間は、イカれているということだけだろう。


石で出来たその屋敷は、この町の中では一番大きな屋敷だが、少年は簡素なボロ布のような泥と埃と血で汚れたワンピースのような服を身に着けていた。




「ノエルー?どこに居るのか……なッ!!」



優しい猫なで声の後に、力任せに扉を開く音。


その扉の開く音は段々と自分が隠れている部屋へと近づいてくる。


少年とはいえ、戸棚に隠れるほどの小ささはない。追ってくる人々をなぎ払えるほどの大きさもない。


中途半端だった。



「ノエルは隠れるのがうまいなぁ……ふふふ」



震える身体を、出来るだけ震えないように、出来るだけ物音を立てないようにと息を止めて、いっそ心臓さえも止まってくれれば良いのにと願いながら、真っ暗な部屋を見渡して隠れられる場所を探す。


シュ、と音が聞こえて、部屋に光がともった瞬間、ノエルは「ひっ」と息を引きつらせた。


そこには、見たこともない、貴婦人が蝋燭に火をつけながら立っていた。随分と前に引き取られたのだがノエルはまだこの家の人間を覚え切れていないので、見たのか見ていないのかも定かではない。


今ノエルを探している男を除いて。



「何をしているの?」



「あ、……」



「こっちにいらっしゃい。ここに隠れていれば安全よ。可哀想に、こんなにも傷だらけになって」



優しく笑うその貴婦人はノエルに手を差し伸べて、ノエルの身体中に刻まれている鞭撻の痕や、切り傷などの無数の傷跡を撫で、ベッドの下を指差した。


怒られる、殴られる、と思っていたノエルはその言葉に一瞬戸惑いながらも、ベッドの下へと身を潜める。


ノエルを探す声はもうすぐ傍に近づいている。迷っている暇などない。



「…あ、…ありがとう…」



「いいのよ」



優しく笑う貴婦人の笑顔は灯された蝋燭で影が揺れて、うまく見ることは出来なかったが、あの声から逃れることが出来ればなんでもよかった。