「あの馬鹿弟子の顔をもう一回、見に行くかな」



「そう、わかった。気をつけてね」



それだけ言葉を交わすとクリスは立ち上がって赤絨毯を伝って、戸を開いた。眩しい光が教会の入り口に差し込む。


ふと、視線を落としたクリスの視界に、まあるいそれが入った。



「フィン!」



声をかけて、投げた。


フィンの手に放物線を描いて落ちた二つのそれは、オレンジ色の綺麗な、柿。


柿には、『フィン君へ』『エレンちゃんへ』と小さく彫られていた。


それを、フィンは口にした。


死神は人間の食べる食べ物全てが泥団子のように不味く感じるはずなのに、フィンはそれを大きな口で食べた。


フィンに差し出された柿の一つをエレンも食べる。


使い魔は食事はいらないが、食べ物の味は理解できる。


口の中に広がる、甘みと、微かな水気。少し柔らかく熟したそれは、グレタの笑顔のように優しく、甘かった。



「……うまい。うまい、と思う…。…ちゃんと食いてぇなぁ…、なぁエレン…どんな味だ?」



「…優しい味がします」



「そっか…」



嬉しそうに、フィンは笑った。


そしてフィンは柿を全て食べ終えると、綺麗に種を洗ってポケットに入れた。それを見たクリスはゆっくりと戸を閉めて教会を離れた。


コーヒーを全て飲み終わって、フィンはエレンを呼んで懺悔室へと向かう。


そこで暫く二人で睡眠をとり、その日の夜。


エレンはフィンを背中に乗せてそこへと向かった。黒騎士が暇な毎日を弄んでいるという英国へと。


先ほど眠ったにも拘らず酷い睡魔に襲われているフィンはエレンの背中で横になりながら、一つの夢を見た。


それは夢と言うには残酷な、今となっては夢のような、フィンが人間だった頃の、記憶。
忘れ去られていた本当の、記憶。








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『白い少年』