「取り戻して欲しいものがあるのです」



話はその言葉から始まった。


フィンは一人掛けの大きなソファに身体を預けながら、少しの言葉で先を促しては、たまに深く掘り下げて問いかけたが、大抵はテレジアが話す言葉を黙って聞いていた。


足元には退屈そうなエレンが欠伸を一つ。エレガントな猫になるようにと付けられた『エレン』という名前が台無しである。



「それは、何?」



「………」



【取り戻して欲しいもの】。その核心に触れるたび、テレジアは渋る。


それでもフィンは何も言わない。促す言葉さえも。


言わなければ助けない、助けられない、ただそれだけの話だからだ。


重い沈黙の後、テレジアは恐る恐る口にした。



「…………妹、を」



「妹?」



「…助けられなかったのです、私は。あの子がストーカーに追われて怯えていたのに…」



微かに湿った声色で、テレジアは自分が死ぬまでの一部始終をフィンに語った。