問題アリ No.1
『妹思いの姉』



ギギィ、と古びた木戸が来客が来たことを伝える。丑三つ時と呼ばれる時刻。


蝋燭の火が、開かれた扉から吹き込んでくる風に揺られて影を乱す。


その明かりさえなければ何一つの照明を持たない、薄暗く気味の悪い美しい教会の中。


ボロボロの布切れを身に纏った女は教会の中へと滑り込むと、赤い絨毯に導かれるままに祭壇へと辿り付くと、その右奥にある懺悔室へと視線を向けた。


まるで誘うように、腕一本が入る程度開けられているその扉に手をかけて、女はギ、とその扉を開ける。


途端に三畳ほどのスペースの誰もいないそこに、フッと蝋燭の火が灯る。



「どうぞ、掛けて」



声に促されるままに、女はその狭いスペースの真ん中に置かれている椅子へと腰をかけた。


焦げ茶の木を使用したその椅子のクッションは赤のベロア生地を使った少し高級(たか)そうなもので、女には少し似つかわしくない。


それを気にするような人間は何処にもおらず、先ほど聞こえた声の主は女の居る部屋の隣、丁度椅子を座ると目の前に居るらしく細かい菱形の網目が幾重にも重ねられた金網のその奥に白だけが認識できる形で、いた。


しかし女にとって話す相手がどんな顔をしていたとして構いはしなかった。興味も無い。


ただ、この存在が自分の求めているそれであるかどうか、知りたいとすればそれだけだ。



「私はテレジアと申します。失礼ですが…あなたが、願いを叶えてくれる人でしょうか?」



「そうだよ」



「私の願いを叶えてくださるのですか?」



「話してごらん。救いの手を差し伸べてあげるよ」



透き通る青年の声は、柔らかい笑みを含めていた。


細かい網目の金網に潰れ、隠された青年の顔は声とは少し違う表情を浮かべている。ニヤニヤと。