そこに二つある赤く光る何かが目だと、血走った目だと、気付いた瞬間引き攣った悲鳴が上がり、同時に手錠に繋がれた鎖が引かれる。


ベッドの下から微かに見える鎖を途切れさせていた、あの黒い、影のような手で。


ギリギリと手錠が手首に食い込む。それでも、痛みに負ければ、ベッドの下へと、引きずり込まれる。



「い、いや……」



呼吸が浅くなる。息の仕方さえも忘れて、その目から目を逸らすことも出来ずただ、首を横に振って引かれる力に抵抗を返す。


まだ身体が自由に動かせるマルシアと違い、ベッドの下は力を入れようにも狭くてうまく力が入らないはずだ。


それなのに、その手はマルシアと同等の、いや、それ以上の力でマルシアを引きずり込もうとする。


咄嗟に手を伸ばす。


先ほど殴られたときに割れた酒瓶が触れた。


それを掴んでマルシアはその手へと殴りつける。


割れた方を下に向けて、その手へ突き刺した。何度も何度も何度も。


それでもその手は皮膚が、肉が裂けて、抉れるだけで、骨が見えて、削れるだけで、離そうとはしない。


ゴリッ、とおぞましい感触。


何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、突き刺しているのに、骨が外れたはずなのに、歪な形の手は、力が緩まることさえしない。


マルシアは身体を微か回転させて、ベッドに足を掛けて引きずり込まれるのを避けようと足を踏ん張って鎖を千切ろうと酒瓶を振りかざす。


しかし図太い鎖は切れる気配もない。


離さない手、切れない鎖。


残るのは一つしかない。