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遠くから何かが倒れる音が聞こえた。



「……ジョルジュ?」



ベッドに繋がれていたマルシアはその違和感にこの家のもう一人の住人である、男の名前を呼んだ。


シンと静まり返る、浴室。


多少長さのある鎖が付いているとはいえ、浴室までの長さはない。


訝しげに首を傾ぎながらも特に気にする様子もなく、マルシアはベッドにうつ伏せに寝転がると大きく溜息をついた。


その顔には疲れと、怪我と、そして口の端を吊り上げた、薄ら笑いの表情が浮かんでいる。


マルシアは携帯を操作してアドレス帳から一つの番号を出すと、ボタンを押して発信した。



「あ、マイケル?ん、あたし。ちょっとさ、朝になったら来て。あたしベッドに繋がれたままで見に行けないんだけど、死んだっぽいんだ。あはは、うん。そう、酒に入れたの」



その後一言二言会話を交わし、電話を切るとマルシアは布団の敷布団を剥いで、その下に隠された札束を取り出した。



「これで晴れて自由の身だわ」



男が隠し溜めた金は此処以外にも幾つかある。


それは薬物を売買した時に貰った金や、不正な臓器を運んだ時にもらったものなど。


マルシアはお金に口付けを落として元あった場所へと戻すと、にやける顔をそのままに目を閉じて眠りに付いた。


暫く目を閉じてジッとしているといつの間にか睡魔に飲まれ、気付けば深い眠りに落ちていた。


微かな身じろぎの後、マルシアは寝返りを打とうとして、身体が途中で動かなくなるのに気付いて目が覚める。


手錠を付けられていることを思い出して、疎ましそうに引っ張ろうとするが、動かない。


右手はベッドの淵に置かれていて、その手は十センチメートルほどしか自由に動かせなかった。


違和感。


ベッドに繋がれているとはいえ、鎖は長めにつけられているので、ベッドの上で寝返りくらいできるはずだ。


マルシアは寝ぼけ眼を擦りながら無理矢理引っ張るが、それでも動かない。