泡がドロドロと身体の上を這い落ち、タイルの上を流れて排水溝に吸われて消えていく。
ただそれだけの何気ない動作の中に、妙な違和感がまた落ちる。
ピリリ、とした痛みを肩口に感じ、タイルにカツン、と何か本当に小さな何かが落ちたような音が響く。
咄嗟に耳に触れたが、ピアスが落ちた様子もない。
大半の泡が無くなったこともあり、目を開けて床を見る。グルリと見渡した時、違和感を見つける。
「……待ち針?」
しゃがんで摘み上げたそれは先端にピンク色の薄い花びら型の飾りが付いた待ち針で、それがこんな場所にあるのは、どう考えてもおかしかった。
肩に感じた痛みに手をやると、そこには、待ち針が一本。オレンジ色の花をつけた待ち針が、男の方にプスリと刺さっていた。
「………?」
首を傾げて、シャワーを振り返り、顔へと垂れる泡の混じったお湯を落とそうと顔を近づけた瞬間、目の前は色鮮やかな色が敷き詰められたかのように襲われ、それが何か、抗おうとする意識さえ伝達する間もなく、押し寄せた色に、男は飲まれた。
痛みは一呼吸置いて、それを理解してから、来た。
シャワーの口から止め処なく、水のように待ち針が降り注ぎ、身体を、顔を、首を、眼球を頬を、胸を、突き刺して、色とりどりの花を咲かせている。
本来ならば針が降るだけでは突き刺さる事などないのにまるでライフルで撃たれたのかと思うほどに強い力で針が全ての細胞を無視して身体を貫いてきたのだ。
「ぅわああ!!」
逃げるようにシャワーの口から離れた。
落ちた針を踏んで跳ねるように浴室内を暴れ周り、針が男の胸から腹、脚を刺して、漸くタイルのみを叩いた。
小さな小さなその針は、本来突き刺すはずだった対象がずれた事を憎らしげに愚痴るようにタイルを叩く。何度も何度も、幾つも幾つも。


