「どう?妹さんの様子は」
「……あぁ、マルシア…」
泣き崩れたテレジアを特に宥めることもせず、逆上した男に酒瓶を頭に叩きつけられ殴る蹴るの暴行を受けているテレジアの妹、マルシアをフィンは眺めていた。
成す術なく、ただ男の暴力にされるがままの、少女。
フィンはその場に蹲るテレジアへと声を掛けた。優しく、優しく。ニヤニヤと笑って。
「どうする?俺は君の願いを叶えることが出来るよ」
「………」
小さく震える唇が、何かを言い出そうと微かに開く。
エレンはため息をつくとフィンの肩から降りて部屋の隅に座り込んで事の成り行きを見守る。
片方では暴力の限りを尽くす野蛮な男と、その暴力に抵抗するでもなくされるがままの女。
片方では泣き伏す女の傍に跪いて優しく問いかける男と、その声に縋るように自分の願いを言葉という形にしようと顔を上げる女。
どちらであれば幸せか、などはエレンは身に沁みてわかっている。
前者だ。
「あの男を殺して!あの子が死んじゃうわ!!」
テレジアは怒りを押し込めた震える声で、静かにそういった。
フィンはにっこりと笑うと一つ頷いて、立ち上がるとパチン、と指を鳴らした。それが合図。
一瞬で部屋の気温が下がった。それは、敏感な人間ならばすぐにわかる変化。それでも、この部屋に居る人間には気付かれないほどの小さな変化だった。
小さな小さな、戻れない劇的な変化。
「叶えてあげるよ」
にっこりと、笑った。
そしてフィンは手を翳した。
男ではなく、テレジアに。
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