「早く妹に逢わせて下さい!こんなことしている間にも、あの子が危ない目に遭っていたら…!」
「了解。んじゃ、エレンよろしく」
ヒョイとエレンの背中に乗り込んだフィンはそのまま都市部への移動を命令し、風を切り、エレンは何の抵抗も受けていないかのように速い足取りで、数秒後には都心部へとやってきた。
明るいネオンに塵や汚れが照らされる、独特な町並みをそれぞれの三人の目は映し出していた。
都市部を初めて見たテレジアは目を丸くさせながら、「汚い町だ」と小さく呟いた。
その住宅街。
それなりに高そうなマンションの前でエレンは止まると二人を下ろして猫のサイズに戻った。
疲れたのか、一つため息をついてフィンの肩へと乗っかると顔だけを上げて示した。
「あの一番上の端に、妹さんがいらっしゃるわ」
聞かされた途端、弾かれたようにテレジアは駆け出すとその部屋まで一気に飛び上がった。
それを地上で眺めながらノロノロと後れを取りながらも追いかけるフィン。
テレジアはドアをすり抜けて妹を探す。
丁度、ソファに女と男が隣り合って座っていた。その手には手錠がお互いの片手を繋ぐ形で掛けられていた。
女は右手に、男は左手に。手錠。
テレビには夜中特有の古い映画が放送されていて、二人は特にそれが目当てというわけでもなく、視界を満足させる為に眺めながら酒やお菓子を食べていた。
女の方はお酒を男に渡しながら、携帯を弄っている。
男はその酒を飲みながら、彼女の携帯が気になるようでチラチラと見ている。
「マルシア、誰とメールしてるの?」
「………別に」
言いながらも、女は携帯から目を離そうとはしない。
途端、男は女の頬を殴り飛ばした。ガシャンと、背の高いグラスなどが男の手でなぎ倒されて、テーブルを汚し、破片が飛び散る。
息を呑む声はこの二人の男女には聞こえない。
その声の主へと声を掛けられるのは、漸く辿りついたフィンぐらいしか居ないのだから。


