嬉々としてペンネアラビアータを口に運んでいると、お姉ちゃんは呆れ顔でそう言った。遠回しに神経が図太いと言われてるんだろな。意外と繊細なお姉ちゃんにはそう映るのかもしれない。その繊細なお姉ちゃんの元に置かれたお皿をそろっと盗み見た。

「お姉ちゃん、食べないと身体保たないよ」

呆れたいのはこちらである。シーフードグラタンは三分の二以上手が付けられておらず、お姉ちゃんは暇を持て余すかのようにフォークで海老を突っついている。

「……いらない。食欲ないし」

「あのねー、せめて半分は食べなよ」

「いいわよ。暑いのにチーズとかホワイトソースなんて気持ちが悪くなるだけじゃない」

「自分で注文したんでしょうが。あ、じゃあシーフードだけ食べたら? それなら平気なんじゃない?」

「……、あたし魚介類アレルギーだったのよ」

「いやいやお姉ちゃんこの前和食屋さんに行った時思いっ切り海鮮丼食べてたよね」

てか、食卓に並ぶ焼き魚とか普通に食べてたし。そもそもアレルギーだったら今まで家族として過ごしてて知らないわけないじゃんか。そんな嘘にもならない嘘を吐いて。

「そんなに食べたくないんだね……」

弱ってるなあ。
ペンネを口に放り込み、フォークをくわえたままお姉ちゃんを見た。

私が今こうしてお姉ちゃんと一緒にいるという事は、和巳さんとの仲直りはまだって事だ。あれから連絡もとっていないみたいだし。今日、車に乗ってから信号で止まる度にお姉ちゃんがちらちら携帯に目をやってるのにも気付いていた。着信がないのを見て悲しそうに表情を歪めるのにも。

何か言葉を掛けるにしたって、恋愛経験値ゼロの私に、恋多き乙女のお姉ちゃんへアドバイス出来るはずもない。だから買い物くらいは精一杯付き合うつもりで来たんだけどなあ。私じゃあお姉ちゃんを楽しませるには役者不足で。というか和巳さん以外、今のお姉ちゃんを笑わせる事なんか出来ない。

「……小春、止まってる」

「……あ」

指摘されて思い出す。フォークをくわえたままだった。ぼうっとしていたとはいえなんたる失態、行儀の悪さに心の中で自分を叱った。