「…ただの人形じゃねぇか。いちいちデカい声出すな。お前は先公の思うつぼだな」



あれ?



「こんなに恐がる奴がいてくれると、先公達も仕掛けを作った甲斐があったな」



イノリはヨッと私を抱え直すと、何事もなかったかのように歩き出す。




キス…したかと思ったけど


勘違いだったのかな?






「明日から本格的な夏休みだね」


「…あぁ」


「今年は何処に行こうか?5人で海とか行きたいね」


「お前、カナヅチなのに?」


「砂のお城作るの!」


「ンなもん公園で作ってろ」




他愛ない話をしながら進んでいくと、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。



どうやらもう出口らしい。





イノリといると変にドキドキして

恐怖心の嫌なドキドキを感じなくなる。




凄く安心して
凄く嬉しくなって


ちょっと、切なくなる。





「どうした?」



もう2人でいられる時間が終わってしまうのが寂しくなって、イノリの首に抱き着いた。



嗅ぎ慣れたイノリの髪の匂いが鼻を掠める。




…好き。