ただのの灰色の塊が過ぎ去り、どこにでもありそうな住宅街を過ぎ。
不釣合いな程の緑の向こうに、忌まわしき私の生家がある。

大学進学と共に出て行った兄とは違い、私はあと暫くこの家に縛られていなければならない。
無論、兄はまたいずれここに縛られて生きてゆくことになるのだけれど。



大きな門の前に停まり、嶌田がドアを開けると我が家の匂いが漂ってくる。
私は車中で大きなため息をついてから、重たい足を動かした。



見渡す限りの塀。
その奥に見える手入れの行き届いた木々の一部。
門には防犯カメラも設置されている。

帰ってきたことを見計らって出てきた執事が恭しく私を出迎える。



やはり、日々狂宴。


私はこの家を抜け出して、どこかに行けるのだろうか。

否、どこかに嫁ごうがこの家の名がずっと背中に圧し掛かってくることが容易に予想できる。



もう一度、大きなため息をついてから、私は降りることの許されないもう一つの舞台に足を踏み入れた。