月明かりは思った以上に明るかった。

 
そんなことすら知らなかった自分が可笑しい。
私は一体何を見てきたのだろうか。

学校の側の公園を歩きながら、私は隣を歩く斑鳩を見上げた。


 
初めて、歩いて帰宅している。
近くで嶌田を待たせてはいたけれど、車に乗るのは断った。

 
私がそんなことを言うのが可笑しかったのか、その後ろに男がいたから意外だったのか。
嶌田は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてから、車を発進させた。


 
ずっと、私の人生は型通りに進むのだと思っていた。
毎日同じことが繰り返され、降りることは決して叶わない舞台の上にいると思っていた。

 
でも、そんなの簡単だったのだ。
勿論、全てから逃げられるわけではない。
私が鶴賀の娘だということには変わりがない。

 
それでも、少し逸脱するだけで、こんなにも楽になるのだろうか。

もしかしたら今まではそれが兄だったのかもしれないが、今はもう必要ないだろう。
兄は、兄だ。

 
そして同じように私は、私。

 
斑鳩は、斑鳩。

 
その他の、何者でもない。