「それが忘れられなくて。生徒会選挙のときに、貴方が出馬すると聞いたときに立候補したのです」


斑鳩の目から視線を反らすことが出来なかった。
一歩、彼が近づいてきても動くことが出来ない。


「貴方はきっと誰にも守ってもらおうとしないから。それならば、影からでいいから支えていこうと。副会長になれたのは運が良かっただけですが。それでも一番身近で貴方を助けることが出来る場所にいれ、良かったと思っています」


また一歩、と近づいてきて、斑鳩の右手が私の頬に触れた。


「貴方は、実の兄とセックスしていたことを、汚れていると思っていますか?」


私の顔を覗き込むように屈んで聞いてくる斑鳩の顔が、優しかった。
それは兄の微笑みとは違って、どこか悲しくもある。


「いいえ」


それだけ答えると、斑鳩が一度目を細めてから顔を近づけた。


「俺も、貴方が汚れているとは思っていません。今までずっと見てきた間も、そして今も」


頬に触れていた手のひらが私の顎に移動して、少しだけ持ち上げて。


 
ゆっくりと、唇が塞がった。


それは、触れるだけのものだったけれど。
今までに感じたことがないぐらい、暖かく、幸せなものだった。


 
ずっと、兄だけだと思っていたのに。
兄だけが与えてくれるものだと思っていたのに。


私はどうして、気づかなかったのだろう。


でも、今それを知ったことが。


私はとても幸福だ。